北斎の娘は自分らしい絵を描けたのか--朝井まかて『眩』

葛飾北斎の娘、お栄を描いた時代小説。北斎、お栄といえばFGOのあの北斎を連想される方も多いのではないでしょうか。あのイメージがそのまま小説になった、というよりこの小説の影響を受けてあのキャラになったと考えられるような内容になっています。北斎の娘として幼い頃から絵を描き続けて育ったお栄。一度は結婚するものの絵にしか興味が持てずにすぐに家に舞い戻ってしまいます。その後北斎の元で描き続けます。この時代の作品は複数人で作るのも普通、でも誰が作ったかって書くとなるとそれは1人分、となると誰の名前が入るかというとそれは北斎となる。お栄もそれが不満というわけでないですが、北斎の名に恥じない作品の制作のために苦悩します。どんな画題を示されてもあっという間にこなしてしまうし、西洋も含めてどんどん技法を取り込んで行く怪物のような父親の前に、自分はどのような絵が描けるのかと問い続けます。

家族関係や恋など色々な人生経験を経てできる作品は変化していきます。各章には北斎と応為の作品名が付けられていて、全部一つにつながっていながらもそれぞれの作品にまつわる短編集のようにも読めるような気がします。

自分らしい描き方、生き方を模索しながら生きていく姿勢をテンポよくまとめていて楽しい小説でした。