新宿のネカフェの店員はもっと優しいぞ! 天気の子感想

さて、ようやく見た天気の子のお話。

あんまり褒めないとおもうのでそこはあらかじめご容赦を。もちろんネタバレあり。

 

 

・物語全体でステレオタイプなイメージで処理されていき展開されていく。

この点が僕の中で厳しいなと思った点だった。例えば

田舎=人は温かいが息苦しい

都会=自由だが人は冷たい

というもはや今更そんなことを語る必要があるのかみたいな部分の描写というか説明が長くて、「いや秒速ではそんなまどろっこしいことしてなかったじゃん!」などと感じた。東京に住んでるが故の話なのかも知れないんだけど、街の外観は極めてリアルなのにそこに息づく人のリアリティを感じられなかったと思う。物語を作り上げるために手近にある都合のいいキャラに紋切り型の行動をさせて動かしたい方向の物語を作っていくような流れには違和感を感じた。ネカフェの店員の話を見出しにしたけど、これはいちゃもんみたいに聞こえる部分もあるが、(実際いちゃもんだと思うが)今作においてはそんな脇役のあり方が東京という街の雰囲気を出すために比較的多めに描かれているのだから中身が空疎なものであってはいけないと思う。

 一方でそんな脇役から形成されるマクロな東京の姿はやけにリアルである。線路の上走っても特に怒らずに冷笑する。テレビに映り込んでもそんなに盛り上がらない…その無関心さが主人公の憤りにも繋がるのは自然な流れだしいい描き方だったと思う。だからこそミクロな方の東京の描き方への違和感はより増すのだが。

 

・皆まで言わなくていいのに

語ったりわかりやすい行動をとらなくてもても感情を伝えることができるのが動画の魅力の一端だと思う。絵画であったとしてその絵の中で「この顔は怒っています。」だの「ここでは寂しげな夜の風景を描いています」だのわざわざ書くかと言うとそうではないと思う。たとえ描かれたことを全てを受け止めきれなくても何度も見るなどしてその真意を探ったり後に解説やキャプションを見て新たな発見をすることが作品を鑑賞する大きな楽しみだと思う。それが説明過多の描写によって解釈の余地が薄れてしまったことを悲しく思う。

 僕がこの映画を見た第一印象は「ハッシュタグがたくさんついて綺麗な風景を移したSNSの投稿を眺めている」みたいなイメージだった。そういうわかりやすさを喜ぶ層にはうれしいのかもしれないけど…という感じだし映画の方針としてもそれを狙っているように見えてなかなかつらかった。

 

・綺麗なものをより綺麗に描くことの限界

定評がある風景描写の美しさについてですが、今回もすごいなとは思ったものの初めて物足りなく思ってしまった。新海さんの作品は普段美しいと思ったことのないものを現実よりも美しく描くことが美しいと思う。でも今回は現実で起こっていたとしたらそれはそのまま美しいだろうという風景で、その描写が「まあ綺麗なんだけど…」にとどまってしまっていて魅力を感じきれないところがあったかなと思う。天気がほぼ固定されてしまっていたのは作品の性質上しょうがないとしても、光とか風の感じに変化をつけられないのは演出上でなかなか厳しいハンデだなと感じた。

こういうテーマならもっと現実離れした構図とかイメージを見たい気持ちもあった。あくまで普通の人の想像の範囲内のイメージを上手に描いている、くらいの感動に収まってしまっていた。

 

・瀧くんと帆高くんの違い

どちらが好きとかそういうのじゃないですがなんだかんだ言って瀧くんの方がスマートな場面が多かった気がする一方帆高くんは見ててハラハラする場面がめちゃくちゃ多かった(共感性羞恥ってやつなんですかね)。君の名はの方は主人公が恥をかくような場面をうまく回避しているのが地味だけど特筆すべき評価点だと思う。言い換えるなら帆高くんは共感しやすい素朴なキャラであったとも言えるかもしれない

 

・クソデカ面倒感情を見せてくれよ

言葉だけではまとめきれなくてめんどくさくて共感しにくくて醜くてこっちの心まで痛むようなクソデカな感情を見せて欲しかった。「会いたい」「好きだ」「助けたい」みたいに簡単に言葉に還元してしまうようなそんな単純な展開はあまり望むところではなかった。もちろんこれは簡単な感情にしかならなかった僕の実力不足なところもあるんですが。

 

・好きだったシーン

陽菜と凪と帆高でホテルで過ごしたシーンは好きだった。2人が結ばれるまでを描いた話は多くても結ばれてからを描ける作品は少ないと思っていて、そんな中で珍しい愛を描いている作品だったと思っています。帆高くん歌あんま上手くないの好き。

 

新海誠さんの作品への期待

なんか色々書いてきて、自分でもびっくりするほど新海誠さんに期待してたんだなということを実感してしまった。

僕は新海さんのことを「主人公とヒロインとクソデカ感情の三体問題のスペシャリスト」だと思っている。完璧に解ききることのできない問題でも綿密なアプローチと精緻な近似解を示してくれていた。そういった稀有な存在だと思っている。僕みたいなクソ陰キャオタク向けの作品は作らないって言われたらそうか…ってあきらめるしかない。でも僕はだからネカフェ店員とかチンピラとの細かな感情の交換なんてどうでもよくなるような作品がいつか生まれる時を待ちたいと思う。