万引き家族の感想--普通の家族と絆についての答えのない問いかけ。

さて、「万引き家族」のお話、ネタバレばっかりなんで気にする方は気を付けて。

この映画のどこが評価されてパルムドールとったのかも国内での評価がどうなのかもいまいち知らないまま、監督の発言に何となく共感して観に行きました。あとシーンとかセリフは割とうろ覚えなので見た人は雰囲気で察してください。

 冒頭は父と子がスーパーマーケットに来店する。タイトルで察する通り出てくる2人がこの後万引きするってはっきりわかるしその通りのことが起こる。その帰り道、商店街でコロッケを買って二人仲良く帰ってくる。万引きが日常と一体化されていること、現金が全くないわけではないことを示すにはこの上なくシンプルな展開である。

 そしてすっかり夜になって帰宅する途中、家から追い出されてドアの前でどうしようもなくなっている小さな女の子を見つける。その女の子を「保護」して家に連れて帰る。

…法律に照らせばどう見ても誘拐だ。そして誘拐であることを連れて帰った先の家族みんなが気がついているし言及している。からだ中のやけど痕に気がつきながらもこっそり返しに行くが、家の前で聞こえてくる会話から厳しい家庭環境を察してそのまま帰ってきてしまう。ここまでで重要なのは女の子の家は決して貧しいわけではなく、ごく普通のアパートに暮らして堂々と生きているということである。

「普通の家族」が出てきたところでの作品で中心として描かれる家族について簡単に紹介する。冒頭で登場してきたリリーフランキー演じる父親。そして息子。二人でコンビを組んで万引きを繰り返す。そんな中で父親は日雇いの工事現場で働いている。母親役は安藤サクラさんが演じている。クリーニング店で働いていたがワークシェアリングで減給されたり解雇されたりする。母の妹はJKのコスチュームをマジックミラー越しに覗く店で働く。祖母役は樹木希林さんが演じており、彼女の月6万円ちょっとの年金は彼らの生活を支える貴重な収入になっている。

…とここまで駆け足で書いただけで分かるように、日本の問題点をこれでもかと詰め込んでいる家族になっている。そこに転がり込んできた女の子も加わって家族はどうなってしまうんだと思ってしまうが、家族旅行とかびっくりするくらい暖かい家族の話が進んでいく。

そのような家族のつながりについてどうして繋がってるの?という質問に対して母は少し困ったように、でも笑いながら「絆だよ!」と答える。

絆という言葉は東日本大震災直後に盛んに用いられ、称揚されてきたがその響きの良さを使って無理やり連帯させるような一面もあったように思う。その少しめんどくさい文脈を踏まえたような表情を見せた上でそれでもこれしか無いという様子で絆という言葉を選んだこのシーンはとても印象的だった。いわば社会から除け者にされたともいえる家族のつながりを表現する言葉として社会の理想のつながりとして用いられてきた言葉を選んでいる。このシーンを皮肉と取ることもできるけど、ぼくはどちらかというと絆や家族という存在の再生や再定義などの希望を感じさせる場面だったと感じている。一方では明らかに戸籍上の家族ではない「娘」もまた疑いようもない万引き家族の一員として描いているのは祝福なのか呪いなのかという問いかけも含まれているように感じて、深い混迷に陥れられる。

この後幸せそうだった家庭でも祖母が亡くなったりして物語は大きく動き出す…んですが続きはまた次回(唐突)

心がざわついてまとめるのが大変なんだこれが。