累-美しさを求めたその先に

『累』見てきました。場所は帝国劇場の近くの映画館ということで場所からしてストーリーにあっていて見る前から少しテンション上がりました。

 物語は土屋太鳳さん演じるスランプに陥っている美人女優ニナと芳根京子さんが演じる顔に大きな傷がある女優の娘で演技の天才である累を中心に進んでいく。

 累の持っている口紅を使うとキスをした相手と12時間だけ顔を入れ替えることができる。それで累とニナの顔を入れ替えて両方の顔と演技を活かして成功を目指す話…なんだけどはじめは友達のように協力していた2人は途中から恋愛や嫉妬から深く対立していく。

 何より驚かされるのは2人の演技。口紅で中身を変わったという設定はそれこそ漫画やアニメなら簡単に表現できる部分だけど実写ではそうはいかない。声や見た目は変わっていても変わらない口調や姿勢、歩き方で中身がどっちか一瞬で分かってしまう。本当に両者の演技がいつでもすごくて、入れ替わるという普通ならありえない!とかファンタジーじゃん!と思う気持ちを抑え込んで本当に自然に設定を受け入れていくことができる。

 舞台に立って活躍するためには美しくなければいけないというのが物語のスタートとなるけど結局のところ演技の良しあしで決まっていく世界であることが2人に示されていく。でも累の演技が輝いている源は自分が美しい姿を借りているということからくる自信であったり顔を入れ替えている時点ですでに自分は他人を演じているという思いから来ている。だからもはや入れ替わる(≒美しくある)ことは累の演技自体と切っても切り離せないものになっている。実はその美しさにはもはや何の意味もなさないのかもしれないが、しかし彼女自身にとっては決して手放せないものになっていた。その姿がラストシーンで演じられる『サロメ』と重なってくる。

 『サロメ』の内容を超ざっくり書くと、主人公サロメは一目ぼれした預言者カナーンに求愛するもサロメの生まれを理由に拒否される。サロメはいつかヨカナーンに口づけすることを誓う。踊りによって王を魅了し、その報酬としてヨカナーンの首を要求し、その望みは叶えられ、口づけをする。という内容。

 そこで披露される土屋太鳳さんの踊りは本当に魅力的でこれだけでもチケット代の元取れたなと思えるくらい。踊っている作品もっと増えてくれ。

 口づけをするシーンの直前でニナと累は揉みあってニナは命が危ういほどの重傷を負い累は舞台に戻っていく。そして口づけをするシーンでヨカナーンの顔はニナの顔として表現される。無事で舞台に戻った女優の中身どちらでも物語が成り立つんじゃないかと思っていたりします。もう決して仲良くすることはできないニナの顔を執念で手に入れた累のシーン、とも考えられるし、美しいニナの顔のまますべてを取り返し、口づけをしても顔が入れ替わらないことを示すシーンとも考えられる。もちろん意図するところとは違うと思うけどそう考えるのも楽しいかなと思ったりしています。少なくともラストシーンは2人の存在が合わさって出来上がったということは言えると思います。

 2時間の映画にいろんな内容詰め込んでいて前半は駆け足過ぎるようにも感じるけれどそこからじっくり進んでいくクライマックスのドキドキとインパクトは大きかったように思います。