一瞬で人生は変わる 100メートル走マンガ「ひゃくえむ。」感想

※今のところ単行本で出ている3巻までの感想になります。

ひゃくえむ。は100m走をめぐるスポーツ漫画だ。

 

 スポーツ漫画で1番多く描かれるシーンといえば何かと言うと試合か練習だと思う。もはや当たり前すぎて確認する気すら起きないそんなところが、この作品では違う。「ひゃくえむ。」では才能の話がとにかく多く出てくるのだ。フォーム、センス、努力、何をとっても圧倒的な才能を持ち合わせた男と、走り続ければ速くなりそうだがその代わりにフォームによって確実に破滅が待ち受けている男。この2人の才能のあり方が物語の中心だ。「100メートル走に人生を懸ける」とも言えるが、もっと正確にこの作品のことを表現するならば、「人生が100メートル走に懸かっている」という言い方のほうが正しいだろう。持って生まれてきて「しまった」ときから人生が狂っているとも言える二人のあり方の違いが象徴的に描かれる。それでもゴールはたった一つ。

速ければいい。

 練習シーンなんてほぼ無いし、試合のシーンもそれほど多くない。しかも公式の大会のシーンは数コマしかない。タイムなんてのは外野の騒ぐ材料でしかない。目の前の相手か自分の才能の限界しか敵はいない。目の前の相手が無名の選手だろうと陸上部ですらないとしても、勝ちたい相手より速ければいいのだ。これ以上削り落とせないくらいのシンプルさが美しい。

 この漫画は無駄なものが全く無くものすごい密度と疾走感で進んでいくんだけど、そんな中でも一瞬、一コマでキャラクターの人生が変わっていく瞬間をものすごい迫力で描くのが印象的だ。具体的にどことは挙げないけれど、読めばわかると思う。100メートルを速く走る、それを人生で数回、いや1回でもできれば人生は違ってくるということを圧倒的な説得力で教えてくる漫画だ。

 

  とりあえず3話までは無料公開されてるのでどうぞ。

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