日本SFのスターターキット『NOVA 2019年 春号』

河出文庫から出ているSFの短編集なんですが見覚えのある好きな作家がたくさんいて買ったんですが知らない人もそれぞれの良さがあっていい短編集でした。1作ずつ簡単に感想とかを。

新井素子「やおよろず神様承ります」
神様を勧めてくるおねえさんとそれによって変わる生活…という話なんだけど宗教という形を言いながらも解決法がとっても現実的だってところが面白い。神様を信じることで現実を変えるという本来のイメージとは違って教義を守ることで生活がよくなり神様を信じるようになるという逆転も面白い。

●小川哲「七十人の翻訳者たち」
これがどういうラストにいきつくんだ??と思いながら読んでいったら綺麗に結び付いていって実力があるなあって改めて思わされる作品でした。

●佐藤究「ジェリーウォーカー」
エイリアンを超える生命を次々と生み出す映画界の魔術師の物語。テンポよくて非常に楽しい作品なんだけど、生物を飼ってる広大な敷地の家が4ヘクタールとか正方形の真ん中に家だとすると100mで外と考えるとちょっと狭くない?とか水槽の水が全部なくなっていた→1日に20リットルの水を飲む必要があるから、っていうと水槽ちっちゃすぎない?とかつまんないところに目が行ってしまった、、、


●柞刈湯葉「まず牛を球とします。」
牛を培養して食べられるようになった世界のお話。ぶっ飛んだ世界かと思う人もいるかもしれないけどいわゆる理系な人ならこんな世界でもいいなって思うのですがまあ少数派なのかもしれないっすね。。。サイエンスチックなジョークとかユーモアが小気味よくて楽しかった。

●赤野工作「お前のこったからどうせそんなこったろうと思ったよ」
距離による格ゲーのラグについて延々としゃべりまくる。光速でも遅い!。モノローグで進んでいくんだけど物語になっているところがとてもすごい。

小林泰三「クラリッサ殺し」
元ネタのレンズマン知らなかったんだけど、この本の中でもトップクラスに好き。VRのアトラクションに関する話でなるほどねって思わされた後にさらに驚きがあってひとりでメチャクチャ盛り上がりました。ラストもおしゃれで好き。

●高島雄哉「キャット・ポイント」

猫とSFはあまたあって、その中でもシュレディンガーの猫はそれだけで作品集ができるレベルでとってもたくさんあるからすこしどっかで見たかなって部分もあるような。でもあったかい雰囲気はとっても素敵だしもっと量読みたかったかなあ。

 
●片瀬二郎「お行儀ねこちゃん」
死んだ猫に機械つけて動かしたり漢字読めなかったチャラ男がバリバリスクリプト書きだしたり色々滅茶苦茶だけどそのまま最後まで走りきる説得力が魅力的だった。 

宮部みゆき「母の法律」
久しく読んでなくても思い出される宮部みゆきさんらしさを味わえるディストピアものでした。架空の日本の架空の法律から現代の問題を考えるのは次の短編と共通している。ひとつ言わせていただくと、人の記憶を自由自在に消せるような世の中ならもっと全然違う世界になってると思うなあと思わなくもないなあ。

飛浩隆「流下の日」
40年間、偉大な首相が統治した美しい国。抽籤のシステム自体は現実味どうだろって考えたけど少数のうまくいった人を例にとって残りを自己責任にするのはすごくあり得るしうまくできたシステムと(悲しいことに)言えてしまうのかもしれない。話の内容も良いけどこの人はホントに描写が美しい…。他の作品も楽しみに待っております。

 

1冊でSFをたくさん味わえるまたとない本になっていると思います。ここから初めてどんどんいろんな作品いろんな作家に手が伸びていくこと請け合いなのでSFになじみがある人もない人も是非どうぞ。