最近SF読んでない人にこそ読んで欲しい ケン・リュウ『母の記憶に』

SFというと宇宙船が出て来てドンパチしてきたりするものをイメージする方も多いかもしれない。一方で星新一ショートショートのように未来の世界、(確率は低くても)ありえるかもしれない世界で新しい技術や出会いとの共存の仕方を描く作品も多くある。そういう意味では今回の『母の記憶に』は星新一寄りと言えるかもしれない。ケン・リュウの小説で星新一との違いを挙げるとするならば、中国にルーツを持つアメリカ人の彼が未来の世界を描いていながらも感じる「もののあはれ」かもしれない。星新一ショートショートはどちらかというとさっぱりとおわるような短編が多いのに対してケン・リュウの短編は結構後に余韻を残すような話が多い。ドローンによる自動攻撃のシステムを開発した人の苦悩であったり、機械の馬を操って北の大地で熊と戦う、みたいな幅のある作品にあってもそれは共通している。たとえ物語の中の人物であっても特別ではなく終わりもあって儚げに生きている、そんなことを実感させてくれるから、舞台とか設定の説得力も増してくる。そして登場人物たちのその後まで思いを馳せたくなるような読後感を与えてくれる。そうした印象や余韻を一言で表すと「もののあはれ」という言葉になると思っている。

訳についてもこの作家の特徴をうまく出せているのではないかと思う(原文を読んでいないので何とも言えない部分もあるが)。特に中国的な漢詩のようなリズムのある文章は実にうまく訳している。SFだけではなく中国の昔話のような話も周りの話との調和を保ちながら味わえるのがこの作品集の魅力だと思う。

そして最後にどんな時でも弱者からの視線を忘れないことも応援したくなる作家だと思う理由の一つであると思う。すでに超人気作家なんだけど、この世知辛い世界にぜひともたくさんの人に読んでもらいたい作家なので何卒よろしくお願いいたします。(これはちょっと分厚いけど文庫の『紙の動物園』とかから入るのはいかがでしょう?)